今日の1ページ

「確率思考の戦略論」森岡 毅/今西 聖貴 著

株式会社KADOKAWA発行 2016年5月31日初版発行 2019年8月10日16版発行

(P228)4⃣組織運営について私が信じていること
●そもそも完璧な組織なんてない
 まず大前提として「完璧な組織はない」と私は考えています。組織(人間やシステム)は最重要な経営資源ではありますが、必ず多くの制約があるので、人員は常に不足してシステムは不整備な状態がずっと続きます。会社が成長軌道に乗ったとしても、人的資源の質的あるいは量的な補充は現実の要求には追いつかないので、組織が満ち足りた状態にはなりません。攻撃にも防御にも同時に優れた組織というのは難しいものです。攻守のバランスがとれた組織は作れるのですが、それは両方中途半端な組織である可能性が大きい。完璧な組織などそもそもあり得ないのです。

 ちょうど11人しか出場できないサッカーチームがバランス型の4-4-2のシステムを組むのか、中盤の厚みを重視して3-5-2にするのか、超攻撃型の3-4-3でいくのか、それらを選ぶようなものです。どのような選択をしても「特徴」が生まれ、文脈によって必ず強みと弱みが生まれます。すべての組織も同様に、完璧な組織などあり得ないことをわかった上で、組織の目的と戦略と合致した組織構造を選ぶのです。それは、自分の組織が置かれた文脈の中で勝ち残っていくために必要な「強み」をどこかに選ぶことです。しかし、選んで実行した瞬間に、その強みの裏側に弱点を抱えることになります。組織構築を選択するということは、分かった上でその組織の弱点をどこに作るのかという意図的な選択だとも言えます。

●「仏の部分」を見つけ、現場力で勝つ
 会社全体もそうですし、多くの部門やチームがよく口にする嘆きがあります。「部下の能力が低くて困っている」というものです。能力が足らない、経験が足らない、ヤル気が足らない。様々なケースがありますが、自分の抱えているチームの中に人材の質と量が足りないことを嘆く声は大きいかと。達成しなければならない高い目的に対して、人的資源が足りない。そういう重いストレスを抱えるのは、中間管理職には共通の悩みとして上位にランクされるのではないでしょうか。

 私自身もそのような経験は痛いほど身に覚えがあります。しかし、実際に多くの葛藤を抱えてきた中で、私の認識あまりのストレスによってある限界に達しました。それは「結局、現行戦力で勝つしかない」というあきらめでもあり、悟りでもあり、極めてどうしようもない現実を受け入れることにしたときに起こった変化でした。会社にお願いして戦力増強を中長期では実現できたとしても、短期での大局は変わらず、嘆いても、ぼやいても、今の状況は変わりません。まして、部下に失望し、イライラで接したり、不必要なプレッシャーをかけたりしても、彼らのパフォーマンスは下がることはあっても上がることはないのです。

 この本の著者は、P&Gを退社後USJ(ユニバーサルジャパン)で圧倒的な結果をたたき出した最強のマーケター&アナリストです。商品市場の現状分析をもとに、外部環境の変化を考え需要予測をし、経営戦略を考える…という仮説をたて本を読みだしたのですが消化不良でした。年末年始の休みに再挑戦します。今回は、組織運営について参考になった部分を掲載しました。

「なんのために勝つのか」廣瀬 俊郎 著

株式会社東洋館出版社発行 2015年12月24日初版発行 2016年2月12日第4刷発行

(P55)逃げたら、同じ壁
 人生において、なかなかうまくいかないことがある。そんなとき、ぼくはある言葉を思い出す。
 「逃げたら同じ壁」
 人は何かをするとき、必ず壁にぶつかる。その時に、どうするか。壁の高さに気をくじかれて諦めてしまうか、とりあえず迂回する道を探ってしまうか…
 僕はまず、いったん落ち着いて考える。ここで諦めてしまっても、いつかまた同じ壁にぶつかるかもしれない。だとするならば、今回で乗り越えてしまったほうがいい。そして覚悟を決めて真正面から挑戦する道を選択する。
 壁を乗り越えた時の新しい世界を見たい。きっとの伊超えても、また次の高い壁が現れるだろう。でも、またそこにチャレンジできる自分が好きだ。その壁を越え、さらにレベルアップした自分に出会えると思うと、ワクワクしてくるのだ。
 壁の乗り越え方は人それぞれだと思う。正解はない。僕の場合は、ただ忍耐強くやるだけである。ひたすら考えて、行動して、自分を信じて続ける。糸口すら見えないことも多いけど、自分ができることはすべてやる。
 あとは、信頼できる人に客観的な意見を求めることもある。逆にいい加減な人の意見には耳を貸さない。変に流されてしまいかねないから。

 著者はラグビーの日本代表平成12年にはキャプテンとして推薦されています。久々にジュンク堂に行き、見つけた本です。ラグビーワールドカップ2019日本大会は熱い想いで観戦しました。諦めない、ワクワクする気持ちで壁に挑む!年を重ねるごとに忘れていました。「壁」にぶつかって今日の1ページ休んでいたのですが勇気をもらいました。
 まだ12月はじめ、年末までしぶとく頑張ります。戦略ナビの新たなテーマをキャプランの「戦略を現場のことばにする」と決めました。OUTPUTを実践します。

『戦略マップ』ロバート・S・キャプラン/デビット・P・ノートン著 監訳櫻井道晴・伊藤和憲・長谷川憲一

ランダムハウス講談社2005年12月14日第1刷発行

(P13)はじめに
 バランス・スコアカード(BSC)を実行している経営者は直感的に、戦略にもとづいた測定システムが戦略をどのように伝達し実行すべきかという課題を解決できることを理解していた。BSCを用いている経営者を観察すれば、彼らが戦略を管理するための新たなシステムを構築していることがわかる。
(6行略)
 
 さらに次の4年間、これらのBSC採用企業の業績と、我々がBSC導入を支援した企業及び独力でBSCを導入した企業の業績を追跡した。ここから、これらの企業は、比較的短期間……BSCプロジェクトとその組織変革を始めて2、3年……で飛躍的なパフォーマンスの改善を達成したことがわかった。驚くべき変革をなし遂げた経営者にBSCの役割について尋ねたとき、BSCは2つの単語、すなわち戦略への方向付け(alignment)と集中(focus)にあると彼らはおしなべて答えた。戦略実行に高度に集中するために、組織資源、すなわちエグゼクティブ・チーム、ビジネス・ユニット、支援グループ、IT、雇用と訓練のすべてを戦略に方向づけることをBSCは可能にしてきた。
(5行略)

 この著書では、BSCに成功した企業が「戦略志向」になるために次の5つのマネジメント原則にどのように従っているかを示した。
・戦略を現場の言葉に落とし込むこと
・企業を戦略に方向づけること
・戦略をすべての人の毎日の仕事にすること
・戦略を継続的プロセスにすること
・経営幹部がリーダとなって変革を活性化すること

 われわれは戦略志向になるためのマネジメント原則について学んだだけでなく、経営幹部と従業員にとって非常に重要な測定の仕方についても学ぶことができた。

 この本を監訳された櫻井先生からサインをいただいたのが平成19年10月30日。5つのマネジメント原則が仕組みになっているBSCは中小企業経営に役立つと考え、BSCを追い続けてきました。戦略への方向付けをするツール「戦略ナビcloud」は、京都大学上級経営会計専門家(EMBA)プログラムで、9月の講義(コンサルティングと会計)に使い、完成度が高い仕組みという評価をいただきました。
 集中は実行。なぜ普及がすすまないのか、『戦略マップ』を読み直し、5つのマネジメント原則の実行を習慣にできない「壁」が最大の要因と改めてわかりました。これまでの延長では事業を継続できない、会計事務所として新たな事業領域を創り事業承継を進めたいと考え取り組んで来ました。戦略ナビ導入の効果は導入事例で証明できました。「戦略への方向づけと集中」が持続力を維持する「鍵」です。

「ザ・ビジョン」ケン・ブラチャード&ジェシー・ストナー 著

ダイヤモンド社2004年1月8日発行

(P29)「ビジョン」とは何か
 木曜日の朝も、ジムと私は「二人の専用テーブル」でコーヒーを飲んでいた。「私のメッセージに対するきみの質問に考えていたんだが、確かに、メールメッセージには、ある意味のインパクトがあった。でも昨日も言ったように、私が望むような、もっと大きな変化は起きていない気がする。
父の時代は、会社全体が「全速前進!」だった。全員が、何を、何のためにやっているのか、きちんと意識していた。何があろうと、決してひるまなかった。自分たちは、社会に貢献する企業を動かしているのだと信じていた。まるで家族のように喜びを分かち合い、助け合っていた。父の影響力は大変なものだった。父のそばにいると、自分は誰かの役に立っていると確信できた。あのころは、会社全体に喜びがあふれていた。私はそれを再現しようとしたが、同じようにできなかった。時代が違うし、父の時代にうまくいった方法が、必ずしも今うまくいくわけじゃないんだ」
当時は全てが「全速前進!」だったというジムの言葉が妙に気になった。『全速前進!』ってどういう意味」と私は尋ねた。
「これはな、蒸気船が走っていた時代の言葉なんだ。エンジンを全開にして、全速力で進んでいるということさ」
「確かに戦争でも使われる言葉じゃなかったかしら?「機雷なんかくそくらえ、全速前進」っていうふうに」
ジムはにっこり笑った。「そこまで言われたら、だまっているわけにはいかないね。こう見えても歴史マニアなんだ。この言葉は、南北戦争の時に海軍のファラガット将軍が言った言葉だ。君の言うとおり、たとえ機雷がしかけてあろうが「機雷なんてくそくらえ」と言って対局を拒んだのがさ、それにしてもどうしてそんなことを思い出したの?」
「『全速前進!』という言葉に、向う見ずに危険に飛び込んでいくというニュアンスがあるのじゃないかと思って」
「いや、その反対だ、むしろはっきりした目的を持ち、その実現に一生懸命取組、きっと実現できると信じる……つまり「ビジョン」を持つことによってどんな障害があろうと断固として前進していくという意味だよ」
ジムは一瞬間をおいてから言った。「それこそまさに、父のやっていたことだ」

 先日、ある会社の経営計画をみせていただいたら、ビジョンに「一人で100歩より100人の1歩の会社になる」という言葉がありました。ビジョン実現のため、環境変化に対応し新たな取組をするにあたり、先行して仕組みをつくり、「この方法で大丈夫、一緒にやろう!」とトライしてきたのですが、順番が間違っていたことに気づきました。久々にこの本を再読、「前進」の仕方について考えました。

「儲かる会社の方程式MQ会計×TOCで会社が劇的に変わる」相馬 裕晃 著  監修 西 順一郎

ダイヤモンド社発行 2019年8月21日

(P103)
 MQ会計とは、付加価値を重視した経営の指標であり、TOCは、付加価値を増やすための具体的な思考方法なのです。
 MQ会計でボトルネックになっている要素(売価、販売数量、変動費、固定費、在庫)を特定して、TOCの考え方を使って、そのボトルネックが解消され、企業の業績が劇的に改善していくという仕組みです。
 本書の舞台となっている千葉精密は架空の会社ですが、本文中のストーリーはすべて筆者のMQ会計×TOCを活用したコンサルティングの実体験をもとに創作したものです。
 実際に、製造業だけでなく、建設業、小売業、卸売業、飲食業、運輸業等、業種を問わず、企業規模も売上規模2億円の中小企業から4兆円を越す大企業まで、多くのクライアントがこれにより業績を向上させる仕組みができています。
 MQ会計×TOCの効果は実証済みです。MQ会計とTOCの2つが揃うことで、会社経営の車の両輪として相乗効果を発揮し、業績が向上していくのです。
 つまり、MQ会計×TOCi =「儲かる会社の方程式」ということができます。
 MQ会計×TOCという手法を学ぶことで、皆さんが現場のリーダーやイノベーターとして、業務改善や経営改革をリードしていただくことを願ってやみません。
 また、マネジメントゲームやTOCセミナーを受講した経験がある読者にとっては、本書によって、MQ会計やTOCの理解をより一層深められるでしょう。

 「あとがき」の一部だけの紹介です。本の内容は「経営者失格」の烙印を押された27歳の女性社長が、会計とTOCを学んで1年で黒字化に挑むストーリーで書いてあるので、読みやすく一気に読んでしまいました。読み終わって、ビジネスの共通言語は「会計」であること、制度会計には不都合な真実(見せかけの利益)があること、コストを下げることは、必ずしも利益やキャッシュを増やすことには繋がりません(P129)にある「原因」と「結果」の追求例…等、目からウロコの連続でした。これまでBSCの仕組みを戦略ナビcloudにしてきた取組を論文にする必要があり、やってきたことをまとめ終えた、いいタイミングでこの本に出合うことができました。MQ会計+TOC+BSC=「儲かる経営」がこれからのテーマになりました。


iTOCは、業績を阻害している原因(ボトルネック)を集中的に改善することによって、業績を「劇的に改善することのできる経営理論」です。(本のP292に記載)

「社員第一、顧客第二主義 ―サウスウエスト航空の奇跡―」伊集院 憲弘 著

毎日新聞社発行 1999年1月30日第2刷

(P103)
 この“社員第一、顧客第二”というスローガンは決して“お客様はどうでもいい、大切なのは社員なんだ”という意味ではないことをはっきりしている。
 社員が、心からお客様第一に徹してくれるには、まず、社員全員が“自分たちは会社から大切に取り扱われている”という実感を持てるように努めるというのが、ケレハー社長以下の経営の姿勢であることを具体的に表しているのだ。
 ケレハー社長は、口に出したことは必ず守り、実行する人だということは社員誰もが知っている。ケレハー社長の“社員第一、顧客第二主義”を自らが実践している例として次のようなことが挙げられる。
 サウスウエスト航空の型破りなサービスに対して、全ての利用客が歓迎しているわけではない。乗客の中には、いろいろと難癖をつけてくる人も当然いる。ある日、一人の利用客のクレームレター(苦情の手紙)がケレハー社長のところにまわってきた。苦情の内容は“客室乗務員のサービスぶりについて少しばかりおふざけが度を越しているのではないか”というものであった。
 この手紙に目を通したケレハー社長は自らペンをとり、次のような返事を書き、サインしてその手紙の送り主に送ったという。
 「私どもは、客室常務員に対してユーモアのセンスを持って、みずからも楽しみながらサービスをするように言っております。もし、あなたが私たちの乗務員のサービスがお気に召さなければ、どうぞ次回からは別の航空会社をご利用ください。私どもは今のやり方を変えるつもりは毛頭ございませんので、さようなら」。CEO(最高責任者)で会長兼務社長がここまでやる企業が他にあるだろうか?
 “社員第一”が実は“顧客第一”と表裏一体であることは、サウスウエスト航空のひとりひとりの社員が十分に理解しているのである。
逆にケレハー社長以下のマネジメントたちは、そのことがわかっているので、社員たちのおふざけがあくまでユーモアセンスを活用した許容範囲内であるということを重々承知し、信頼しているのであろう。

 サウスウエスト航空は、アメリカテキサス州ダラス市を根拠地としている格安航空会社。運航開始までの法定での争い、運航開始後のライバルとの闘いを経て、格安航空会社の雛形になっています。家族的な社風と独特の企業文化でも有名です。今日の1ページは、ビジョンを現実にするには、ビジョン実現のプロセスが最も大事。その鍵はこの1ページにあると気づきました。対応を間違えると、顧客のクレーム(わがまま)を重視し、ビジョン実行の風土を自らこわしてしまうことになります。

「無印良品のPDCA」良品計画前会長 松井 忠三 著

角川書店発行 2013年8月30日3版発行

(P003)
はじめに
 「社内に仕組がない」「組織に実行力がない」
 年間100回を超す全国の講演先で、経営者や経営幹部、管理職の皆さんから寄せられる悩みの多くは、つきつめるとこの2つに集約されます。
 たとえば、会社や店舗に仕組みやマニュアルがなく、それぞれがばらばらのやり方、レベルで仕事をしているような現況はどこでも決して珍しくありません。そこに異動で新しい店長、支店長、マネジメント層が着任したらどうなるか?当然、それまでのやり方はガラット変えられて新しい責任者のやり方で一からのスタートを強いられます。そのあおりを食うのはいつでも現場の部下やスタッフたち……。こんな状況では、組織の成長など望むべくもないでしょう。経営幹部や管理職の方々から現場にいたるまで、それに気づいているからこそ冒頭のような「悩み」が生まれるのですが、かといってそれを打破する実行力もない。今、多くの組織はこんな状況に陥っているように見えます。
 ならば、まずは手っ取り早く他社の優れた仕組みやマニュアルに倣って同様の仕組みを社内で展開すればよいのではないか。そう思うかもしれません。実際に、「いくら払ってもいいから無印良品のマニュアルをもらってこいと社長に言われて来ました」と言われて驚いたこともあります。マニュアルに対する理解が根本から違うのです。他社の取り組みを自社仕様につくり変え。“血の流れるレベル”までにものにできる会社は100社に2社もないのです。なぜなら、「仕組み」にしてもマニュアルにしても、一度つくれば未来永劫効果を発揮するようなものではなく、絶えず手をかけて、ようやく根付き、現場で機能するものだからです。無印良品のマニュアル「MUJIGRAM(ムジグラム)」も同じで、いまも社員の自発性に基づいて日々改良を続け、現場で「使える」状態にアップデートされ続けています。この仕組みを組織全体でやりきるには、実行力とそれを支える風土「社員の意識」が必要なのです。
 残念ながら、それらを促進するための妙薬などありません。ただひたすら当たり前のことを当たり前に続けたことが結果に結びついたにすぎません。

 「PDCAの本」何冊も読んでいますが、この本は「アナログ手帳とPDCAの切れない関係」という序章から始まっています。著者が、Check(評価)に前年の手帳を使い、100%実行されるまで手帳で追いかけ、PDCAをともなったスケジュール管理を実行してきた「やり方」が書いてあります。「計画5%、実行95%の組織が強い、計画は、あくまでも実行するための実行計画であるべきだ」。良品計画の本を集中して読み、頭が無印になりそうです…(笑。戦略ナビ活用の意義がまた一つわかりました。ツールは定石!それを使い続けて勝ち続ける仕組みをつくること!

「無印良品は仕組みが9割」良品計画会長 松井 忠三 著

角川書店発行 2013年8月30日3版発行

(P2)
■なぜ今「仕組み」を公開するのか
 私はいま、無印良品を運営する良品計画の会長を務めています。そんな私が、あえて無印良品に秘密を公開して、仕組みの大切さを説く理由は大きく二つあります。

 一つは、やや大げさな言い方になりますが、日本の経済を元気にするために、一緒に頑張っていきたいという思いがあるからです。
 いまの日本には、経済状況が厳しいなかでも、努力に努力を重ねているビジネス・パーソンがたくさんいます。しかし、そのような「努力」が、正しく「成果」に結びついていないケースが多いように感じています。
 ではどうすればいいのか、
 そのヒントが「かつて不振にあえいだ無印良品」にあると思ったのです。

 おかげさまで無印良品は、国民的ブランドとして成長しました。今では海外でも「MUJI」と呼ばれ、日本初のブランドとして知れ渡っています。
 しかし、かつては業績が悪化し、「無印良品はもう終わりじゃないか」と業界内で囁かれていた時期がありました。私は、そのような“谷底に落ちていた時期”に社長に就任しています。
 そこで最初に取組んだのは、賃金カットでもなく、リストラでもなく、事業の縮小でもなく、仕組みづくりでした。
 簡単に言うと、それは「努力を成果に結びつける仕組み」「経験と勘を蓄積する仕組み」「ムダを徹底的に省く仕組み」。これが、無印良品の復活の原動力になったのです。
 仕組みとは、組織の根幹にあたるものです。これがしっかり築けていないと、いくらリストラをしたところで、不振の根本原因は取り除けず、企業は衰退します。
 何事も「基本」がなければ「応用」がないのと同じように。「会社の仕組み」がなければ、そこから「知恵」も、ひいては「売上げ」も生まれません。
 逆に、
 ・シンプルに仕事ができる仕組みがあれば、ムダな作業がなくなります。
 ・情報を共有する仕組みがあれば、仕事にスピードが生まれます。
 ・経験と勘を蓄積する仕組みがあれば、人材を流動的に活用できます。
 ・残業が許されない仕組みがあれば、自然と生産性が上がります。
 このような無印良品の「仕組み」はあらゆる業務に及んでいます。
 神は細部に宿る……これは、ドイツ出身の建築家、ミース・ファン・デル・ローエが残したと言われる有名な言葉です。
 この言葉の意味についてはさまざまな解釈がありますが、ディテールにこだわることが作品の本質を決める、という意味ではないかと私は考えています。企業の力を決定づけるのも、やはりディテールであり、それが仕組みなのです。

 この本は、発行されたときに買い、内容をもとに「戦略マップ」をつくりました。本の最後P221に書いてあることば、「リーダーは自分が率先して、頑張ってするのがすべてではないはずです。部下が率先して行動するような仕組みづくり、部下の意識を変えていくのがリーダーに課せられた使命です」をみて、どっきり!この本を読み直し、当時作った「戦略マップ」を確認し、わが社の習慣化している業務をみなおすことにしました。

「バランスト・スコアカード実践ワークブック」中野 明 著

秀和システム発行 2019年4月15日第1版第1刷発行

(P8)
バランスト・スコアカードの基本的な意味
□短期指標編重からの脱却
 バランスト・スコアカード(BSC)は、ハーバード・ビジネス・スクール教授ロバート・S・キャプランとコンサルティング会社社長デビッド・P・ノートンが、1990年に研究プロジェクトの報告書としてとりまとめたものに端を発します。
 従来の企業の指標は、どちらかというと短期的な財務の視点に偏りがちでした。この点に着目したキャプランとノートンは、財務の視点に、非財務的な長期的視点として、顧客の視点、内部プロセスの視点、学習と成長の視点を加えました。そして、この4つの視点で組織の活動を総合的に評価しようとしました。これがバランスト・スコアカードの始まりです。つまり、バランスト・スコアカードは組織の評価をするシステムとしてそのスタートを切ったわけです。
□戦略と実行のギャップを是正
 バランスト・スコアカードには、財務、顧客、内部プロセス、学習と成長という4つの視点をトップダウンで考察するという特徴があります。高い財務成績を実現するためにはどの顧客に焦点を合わせ、その顧客を満足させるにはどの内部プロセスに焦点を合わせ、そのためには従業員にどのような学習をほどこすべきか、という具合です。
 つまり、組織の財務目標が、バランスト・スコアカードによってブレイクダウンされ、組織の末端の活動まで行きわたるような構造になっています。一方、従来の組織では、経営トップが高らかに経営戦略を宣言するものの、それが組織の隅々までには行きわたらないというジレンマがありました。これは組織の具体的活動が、その戦略とそぐわないという問題を引き起こします。

 これまで、バランス・スコアカードについての説明がわかりやすいので、2009年12月8日発行の「バランス・スコアカード実践ワークブック」を活用していました。同書籍はすでに発行されていないので、代わりの本を探していたら、この本がみつかりました。「バランスト・スコアカード」という名称に変わっています。最初は「バランス・スコアカード」で2001年に「戦略マップ」が発表されてから「バランスト・スコアカード」に名称が変わりました。経営支援業務に活用し、「現場」を知っている私には独自の理屈があるのですが(汗、基本的な仕組みを理解するための入門書としてこの本をおすすめします。

「ドラッカー入門」上田 惇生 著

ダイヤモンド社発行 2010年4月1日第6刷発行

(P114)
バランスト・スコアカードのルーツ
 マネジメントの役割として、本業、人、社会的責任を言うだけでは、それこそ言うだけに終わり、成果をあげる経営とはならない。そこで必要となるのが、具体的目標である。
 ドラッカーは、7つの領域、あるいは8つの領域で目標を設定せよという。目標は複数である。複数だからバランスさせなければならない。企業活動に唯一絶対のものがあるとするから間違う。しかも、それが利益だとするから大きく間違う。これが、経営手法としてのバランスト・スコアカードのルーツとなったコンセプトである。
 目標を設定すべきは、第一にマーケティング、第二にイノベーション、第三に生産性。第四に人材、第五に物的資源、第六に資金、第七に社会的責任である。そして「条件」としての利益である。
 重要なことは、利益を条件として位置付けていることである。利益は目標ではない。条件である。明日さらによい事業を行うための条件である。したがって、マネジメントには7つの目標と1つの条件があるといったほうが適切である。
 これらの目標と条件をバランスさせて達成しなければならない。だから、バランスト・スコアカードと呼ぶ。何をバランスさせるかというと、財務、顧客、業務、イノベーション。すなわち、過去、外部、内部、将来である。
 それでは、それらのものを総称して何と呼ぶか。ドラッカーはこれを「富の創出能力」と名づける。企業の目標とすべきは、利益ではなくこの富の創出能力の最大化である。そして、その能力の十分な発揮である。
 企業の目標を富の創出能力の最大化とし、その内訳を複数の領域のそれぞれに複数の目標を設定させる等と言うことは、まさにモダンを内包するポストモダンの手法と言うべきである。もちろん、その大本の富の創出の増大とは、あくまでも世のため人のためのものである。

 ドラッカーの本との出会いは、2007年、研修で講師の宮本嘉興先生(公認会計士)から宿題としてだされた「抄訳マネジメント」(上田惇生訳 ダイヤモンド社発行1993年5月26日第37版)でした。この本の「おわりに」P189を読んで驚きました。上田惇生氏が経団連に就職し、翻訳チームに入ってドラッカーのマネジメントを翻訳した後、ドラッカーに直接交渉し「英語で薄くしたもの」が「抄訳マネジメント」と書いてありました。この本を読むと、ドラッカーの「世界」の背景が良くわかります。バランスト・スコアカードもドラッカーがルーツです。