発行所ダイヤモンド社 2006年11月9日 第1刷発行 2013年3月13日第2冊発行 P77
第3章どのような貢献ができるか
貢献へのコミットメント P81
「どのような貢献ができているか」を自問しなければ、目標を低く設定するばかりでなく、間違った目標を設定する。何よりも自ら行うべき貢献を狭く設定する。
なすべき貢献には、いくつかの種類がある。あらゆる組織が三つの種類における成果を必要とする。すなわち、直接の成果、価値への取組み、人材の育成である。これらすべてにおいて成果をあげなければ、組織は腐りやがて死ぬ。したがって、この三つの領域における貢献をあらゆる仕事に組み込んでおかなければならない。もちろんそれぞれの重要度は組織によって、さらには一人ひとりの人によって大きく異なる。
第一の領域である直接の成果については、はっきり誰にでもわかる。企業においては売上や利益など経営上の業績である。病院においては患者の治癒率である。もちろん直接的な成果と言っても、銀行の証券代行部のように誰にも明白なものばかりとは限らない。だが直接的な成果が何であるべきかが混乱している状態では成果は期待しえない。
(略…例として、直接的な成果が三つあり、板挟みになっているイギリスの国営航空会社の事例)
直接的な成果は常に重要である。組織を活かす上でカロリーの役割を果たす。一方組織には価値への取組みが必要である。これは、ビタミンやミネラルの役割にあたる。組織は方向性をもたなければならない。さもなければ混乱、麻痺し、破壊される。
第二の領域にある価値への取組みは、技術面でリーダーシップを獲得することである場合もあるし、シアーズ・ローバックのようにアメリカの一般家庭のために最も安く最も品質の良い財やサービスを見つけだす場合もある。もちろん価値への取組みもまた、直接的な成果と同じように明白なものばかりとは限らない。
(略…例として、根本的に相いれない二つの価値観に身を裂かれてきたアメリカ農務省の事例)
第三の領域が人材の育成である。組織は個としての生身の人間の限界を乗り越える手段である。したがって、自ら存続させえない組織は失敗である。今日、明日のマネジメントにあたるべき人間を準備しなければならない。人的資源を更新していかなければならない。確実に高度化していかなければならない。
そして次の世代は、現在の世代が刻苦と献身によって達成したものを当然のこととし、さらにその次の世代にとって当然となるべき新しい記録をつくっていかなければならない。
ビジョンや能力や業績において、今日の水準を維持しているだけの組織は適応能力を失ったと言うべきである。人間社会において唯一確実なものは変化である。自らを変革できない組織は明日の変化に生き残ることはできない。
貢献に焦点を合わせるということは人材を育成するということである。人は課された要求水準に適応する。貢献に照準を合わせる者はともに働くすべての人間の水準を高める。
(略……例として病院の看護師の「それは患者さんにとって一番良いことでしょうか」というビジョンが病院全体に浸透した例)
貢献に焦点を合わせるということは、責任をもって成果をあげるということである。貢献に焦点を合わせることなくしては、やがて自らをごまかし、組織を壊し、ともに働く人たちを欺くことになる。
上記について『実践するドラッカー利益とは何か』(上田惇生 監修P96)では下記のように解説しています。
組織には、三つの領域の成果が必要です。「直接の成果」は、売上や利益、顧客数など一般に私たちが成果と呼んでいるものです。これらは短期的にも測定可能です。とりわけ本書の重要テーマである利益は、企業の標準的な評価尺度として不可欠の存在です。
「価値への取組み」と「人材育成」は長期的に取組み、継続的に評価していくものです。価値への取組みは、顧客価値の継続的な想像を意味しています。顧客が支持してくれる要因を突き止め、継続的にその価値を高めていくことです。組織における最も重要な成果です。
「マネジメント・スコアカード」体系化の試み(淑徳大学 藤島秀紀氏i)という論文をネットで見つけました。ドラッカーがコンサルティングに考案したと言われる理論を体系化し、紹介しています。論文には「ドラッカーのマネジメント理論が、R.S.カプランとD.P.ノートンが開発したと言われるBSCに影響を与えていることが容易に想像されよう。事実、BSCの体系にはとくに『現代の経営』の中核概念が随所に取り入れられているのである」という記載があります。
上田惇生氏訳の『現代の経営』に、CSR、バランスト・スコアカード、職務主義と役割主義の差異などの考え方もすでに記載されているという文面があったのを思い出しました。現代の経営が発刊されたのは1950年代。BSCが発表されたのは1992年です。
中小企業が外部環境の変化に対応するためには、現状を分析、評価し業績をもたらす領域に経営資源を集中する取組みが必要。これまで取り組んできたBSCとドラッカーの教えをつなぎたいと考え『経営者に贈る5つの質問』4の「我々にとっての成果は何か」(P55)をテーマに読んでいます。今回は、ミッションとビジョンの関係、ドラッカーの「マネジメント・スコアカード」がBSC開発のもとになっていることを知りました。
iドラッカー学会理事、立命館アジア太平洋大学初代学長,立命館大学経済学部教授.京都 大学大学院修了(経済学博士).著書に『大学のイノベーション』(東信堂),『ドラッカー再発見』法律文化社,等