株式会社あさ出版発行 2022年4月15日第1刷
環境整備を業務として行う方法はどのようなものなのか。環境整備の定義と手順について触れておきたい。
一倉は、「環境整備というのは、規律・清潔・整頓・安全・衛生の五つである」とし、特にその意味を明確にしておくべきものとして、規律、清潔、整頓について詳細に言及している。
規律……「規律とは、①決められたことは必ず守る、②命令や指図は必ず行われるというのが正しい解釈」
一倉は「規律」について、「社長学」ならではの、社長がもつべき心得を挙げている。たとえば、「『必ず行われる』については、命令や指図を受けた側に一方的な責任があるのではない」として、「命令した側には、行わせる、行えるように指導する。正しく行われたかどうかをチェックする責任がある」と述べている。そのため、「命令の出しっぱなし」や「いくら言っても部下がやらない」と嘆くのは、社長の心得違いであり、社長のほうに非があると断言している。
清潔……「清潔とは、①いらないものを捨てる、②いる者を捨てないというのが正しい解釈」。
「清潔」に関しては、「もったいないと捨てずにおくのは美徳のようであって美徳ではないのだ。いらないものに大切なスペースを占領されて仕事に差し支えるのは、愚行でしかない」とし、「もったいない、といっていらない物を捨てずにいるのこそ、本当の意味でもったいないことをしている」と主張している。「もったいないから捨てない」という点については、昔の人はいろいろな考え方もあるだろうが、少なくとも、仕事においては真理であると筆者には肯けるものがある。先述した私の会社における経験を今一度振返ってみたい。
故障した工具類を「もったいないから、あとで修理してもう一度使おうと、工具箱の隅に置いていても「後で修理」する機会は訪れることなく、いつしか工具箱の隅でホコリをかぶってずっと放置されてしまい、貴重な作業スペースを占拠し、作業の邪魔になることがしばしばだった。
環境整備の取組みにおける「清潔」を実現させるのは、「もったいないから捨てない」という考え方を捨てることからはじめなければならない。ドラッカーは奇しくも、イノベーションとは「体系的廃棄」でるとした。つまり「捨てること」がイノベーションを生み出すと主張したのだった。
まさに、環境整備においては、「もったいないから捨てない」という考え方を心の中から捨てることによって、社長は白紙の眼で、環境整備がもたらす生産効率や品質改善、サービス向上などの具体的な効率を客観的に判断することができるようになるのではないだろうか。こうすることによって、一倉が言う「いる者を捨てない」眼力も同時に養われてくるのではないかと思える。
整頓……「整頓とは、①物の置き場所を決める、②置き場の管理責任者を決めて表示することであって、“片づける”ことではない」。なぜなら、「片づけたら仕事にならないではないか。だから、「片づけろ」という指令は間違いである」から。これは考えてみれば至極もっともで、加えて「物の置き場所を決める時の留意点は仕事に最も便利なような、ということである」としている。
この点について、“消火器”を事例に出して、「イザという時を考えて、取り出す時にジャマになるようなものは置かないようにしなければならない。これが案外できていないのを、私は知っている」と、だれもが思わずギクリとしてしまうような“真実”をさらりと指摘している。
第2章 ステップ1「三種の神器」を揃える、三種の神器とは①お客様訪問、②経営計画書、③環境整備。P98に「一倉定は、「環境整備を仕事に原点と位置づけ、お客様訪問と経営計画書に並んで、社長が率先して取り組むべき大切な仕事であるとした」という記載があります。「業績のいい会社」は環境整備ができています。この本を読み、環境整備をすることにより「業績のいい会社」になれるという意味が分かりました。前書きに、ドラッカーのマネジメントは米国の大企業を背景にして生まれたが、一倉定の「社長学」は日本の中小企業における経営指導をとおしてつくられた、と書いてあります。経営者におすすめの本です。