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『経営は実行』著者 ラリー・ポジティ、ラム・チャラン、チャールズ・パーク 訳者 高遠 裕子

発行所 日本経済新聞社 203年2月12日1版1刷 2007年6月4日刷 P103

第3章どのような貢献ができるか
実行を可能にする文化
 最近よく耳にする言葉がある。それは、考え方で行動は変わらない、行動が変われば考え方が変わるというものだ。
 行動によって考え方を変えるにはまず、「文化」という言葉を読み解くところからはじめなければならない。企業文化とは、突き詰めれば、会社が共有する価値観や考え方、行動規範が集まったものだ。文化の変革を目指す人たちは真っ先に、価値観を変えるべきだと主張する。だが、それは間違いだ。価値観とは高潔さや顧客の尊重、GEの場合ではバウンダリレスネス(境界のないこと)と言った基本原則や基準であり、強化する必要はあっても、変えなければならない場合はほとんどない。会社の中でも特に高い地位にある幹部が、その会社の基本的な価値観に違反したとき、リーダーは断固とした姿勢をとり、誰にでもわかる形で罰しなければならない。それができなければ、精神的な強さが欠けているとみられる。
 多くの場合、変えなければならないのは、具体的な行動に影響を与える考え方だ。考え方は研修や経験、社内外での評判、リーダーの言動に対する見方によって形づくられる。人間が考え方を変えるのは、それが間違いだったと納得できる証拠が提示されるときだけだ。たとえば自分たちの業界が成熟していて成長の見込みがないと考えれば、社員は時間や労力を割いて成長の機会を見つけようとはしない。自分ほど働いていない者がおなじ報酬をもらっていると考えれば、やる気をなくす。
 EDSiでディック・ブラウンが最優先したことのひとつは、考え方と行動に的を絞って文化を変えることだった。2000年1月の上級幹部会議では、過去5年間に自社についての見方を決めた最も重要な考え方と、今後、必要な考え方を上げるよう指示した。グループに分かれて議論した結果、次のようなリストができあがった。

EDSの古い考え方

・当社の事業はありふれている DESが身をおいているのは、成長率が低く、成熟した産業―コンピューター・サービスのアウトソーシングである。この業界は競争が激しく、差異化できず、したがって利益率が低くなるのも当然だ
・当社は市場平均並みの成長はできない EDSはありふれた業界の最大手であり、利益を出しながら成長するのはむずかしい。
・利益は売上についてくる 受注を増やせば、その事業の最大手であり、利益あげられる。こうした考え方では、資源の配分を誤ることになる。
・各リーダーが部門内の資源をすべて所有するー管理がカギとなる 各部門は完全な自主権を持ち、自分の縄張りを守る(こうした考えでは、事業部門間の協力が不可能になる)。
・同僚は競争相手だ 資源の所有者と同じく、この考え方が大きな障害になっている。社内で競争的な行動をとるのは建設的でない。競争相手は隣の部門ではなく、市場にいるのだ。市場で勝利するにはチームワーク、知識の共有、そして協力が欠かせない。
・社員は責任をとらない 「私の責任ではない」が決まり文句になっている。
・顧客よりもわれわれの方が知っている。
・顧客にどのようなソリューションが必要かは、当社の社員が教える
こうした考え方が、顧客の問題やニーズに十分に耳を傾けるのを防げる。

EDSの新しい考え方

・市場を上回る成長は可能あり、しかも収益性が高く、資本効率が高い形で達成できる。
・生産性を毎年向上させることができる
・顧客の成功を手助けする。
・卓越したサービスを実現する。
・われわれの成功にとって、協力がカギである。
・われわれは責任を負い、熱意をもって取組む。
・顧客の声にもっと耳を傾ける。

 二番目のリストが、上級幹部だけでなく、すべてのリーダーの行動を変える指針になった。行動とは考え方を実行したものだ。行動が結果を生む。真価を問われるのが行動だ。行動について問題になるのは、個々の行動よりも行動規範だ。行動規範とは、企業という場で受け入れられ、期待されている行動であり。「関わり合いのルール」とも呼ばれる。行動規範は、社員が集団としていかに動くかを示すものだ。だからこそ、企業が競争優位を築く上で重要になる

 この本は2008年頃、東京の書店で買いました。全米ベストセラーのビジネス書。誰も気づかなかった、「実行」のノウハウをはじめて解き明かした「生きた経営の教科書」ついに登場!と帯書きに惹かれました。「考え方で行動は変わらない、行動が変われば考え方が変わる」という言葉は今でも大事にしています。「実行のため最も重要なのはリーダーが自分の組織に情熱を持って深くかかわることであり、他社や自社の現実に正直であることだ。」(P11)原点回帰、実行の壁に再度挑戦します。


iエレクトロニックデータシステムズ、アメリカ合衆国に本社を置くITサービス企業。2008年にヒューレットパッカードに買収され、独立した企業としては消滅(Wikipedia)。

『経営者の条件』著者 P.F.ドラッカー 訳者 上田 惇生

発行所ダイヤモンド社 2006年11月9日 第1刷発行 2013年3月13日第2冊発行 P77

第3章どのような貢献ができるか
貢献へのコミットメント P81
 「どのような貢献ができているか」を自問しなければ、目標を低く設定するばかりでなく、間違った目標を設定する。何よりも自ら行うべき貢献を狭く設定する。
 なすべき貢献には、いくつかの種類がある。あらゆる組織が三つの種類における成果を必要とする。すなわち、直接の成果、価値への取組み、人材の育成である。これらすべてにおいて成果をあげなければ、組織は腐りやがて死ぬ。したがって、この三つの領域における貢献をあらゆる仕事に組み込んでおかなければならない。もちろんそれぞれの重要度は組織によって、さらには一人ひとりの人によって大きく異なる。
 第一の領域である直接の成果については、はっきり誰にでもわかる。企業においては売上や利益など経営上の業績である。病院においては患者の治癒率である。もちろん直接的な成果と言っても、銀行の証券代行部のように誰にも明白なものばかりとは限らない。だが直接的な成果が何であるべきかが混乱している状態では成果は期待しえない。

(略…例として、直接的な成果が三つあり、板挟みになっているイギリスの国営航空会社の事例)

 直接的な成果は常に重要である。組織を活かす上でカロリーの役割を果たす。一方組織には価値への取組みが必要である。これは、ビタミンやミネラルの役割にあたる。組織は方向性をもたなければならない。さもなければ混乱、麻痺し、破壊される。
 第二の領域にある価値への取組みは、技術面でリーダーシップを獲得することである場合もあるし、シアーズ・ローバックのようにアメリカの一般家庭のために最も安く最も品質の良い財やサービスを見つけだす場合もある。もちろん価値への取組みもまた、直接的な成果と同じように明白なものばかりとは限らない。

(略…例として、根本的に相いれない二つの価値観に身を裂かれてきたアメリカ農務省の事例)

 第三の領域が人材の育成である。組織は個としての生身の人間の限界を乗り越える手段である。したがって、自ら存続させえない組織は失敗である。今日、明日のマネジメントにあたるべき人間を準備しなければならない。人的資源を更新していかなければならない。確実に高度化していかなければならない。
 そして次の世代は、現在の世代が刻苦と献身によって達成したものを当然のこととし、さらにその次の世代にとって当然となるべき新しい記録をつくっていかなければならない。
 ビジョンや能力や業績において、今日の水準を維持しているだけの組織は適応能力を失ったと言うべきである。人間社会において唯一確実なものは変化である。自らを変革できない組織は明日の変化に生き残ることはできない。
 貢献に焦点を合わせるということは人材を育成するということである。人は課された要求水準に適応する。貢献に照準を合わせる者はともに働くすべての人間の水準を高める。

(略……例として病院の看護師の「それは患者さんにとって一番良いことでしょうか」というビジョンが病院全体に浸透した例)

 貢献に焦点を合わせるということは、責任をもって成果をあげるということである。貢献に焦点を合わせることなくしては、やがて自らをごまかし、組織を壊し、ともに働く人たちを欺くことになる。

 上記について『実践するドラッカー利益とは何か』(上田惇生 監修P96)では下記のように解説しています。

 組織には、三つの領域の成果が必要です。「直接の成果」は、売上や利益、顧客数など一般に私たちが成果と呼んでいるものです。これらは短期的にも測定可能です。とりわけ本書の重要テーマである利益は、企業の標準的な評価尺度として不可欠の存在です。
「価値への取組み」と「人材育成」は長期的に取組み、継続的に評価していくものです。価値への取組みは、顧客価値の継続的な想像を意味しています。顧客が支持してくれる要因を突き止め、継続的にその価値を高めていくことです。組織における最も重要な成果です。

 「マネジメント・スコアカード」体系化の試み(淑徳大学 藤島秀紀氏i)という論文をネットで見つけました。ドラッカーがコンサルティングに考案したと言われる理論を体系化し、紹介しています。論文には「ドラッカーのマネジメント理論が、R.S.カプランとD.P.ノートンが開発したと言われるBSCに影響を与えていることが容易に想像されよう。事実、BSCの体系にはとくに『現代の経営』の中核概念が随所に取り入れられているのである」という記載があります。
 上田惇生氏訳の『現代の経営』に、CSR、バランスト・スコアカード、職務主義と役割主義の差異などの考え方もすでに記載されているという文面があったのを思い出しました。現代の経営が発刊されたのは1950年代。BSCが発表されたのは1992年です。
 中小企業が外部環境の変化に対応するためには、現状を分析、評価し業績をもたらす領域に経営資源を集中する取組みが必要。これまで取り組んできたBSCとドラッカーの教えをつなぎたいと考え『経営者に贈る5つの質問』4の「我々にとっての成果は何か」(P55)をテーマに読んでいます。今回は、ミッションとビジョンの関係、ドラッカーの「マネジメント・スコアカード」がBSC開発のもとになっていることを知りました。


iドラッカー学会理事、立命館アジア太平洋大学初代学長,立命館大学経済学部教授.京都 大学大学院修了(経済学博士).著書に『大学のイノベーション』(東信堂),『ドラッカー再発見』法律文化社,等

『非営利組織の経営』 著者 P.F.ドラッカー 訳者 上田 惇生

発行所ダイヤモンド社 2007年1月26日第1刷発行 2017年8月1日第14冊発行 P121

多様な関係者
 非営利組織といえども、成果をあげるにはプランが必要である。プランはミッションからスタートしなければいかなる成果もあげられない。ミッションが、あげるべき成果を想定する。
 したがって、非営利組織は、顧客は誰かを考え、そのそれぞれにとって成果はなんであるかを考えなければならない。
 非営利組織と企業との最大の違いは、非営利組織には多様な関係者がいるところにある。かつて、企業には関係者は1種類、顧客しかいなかった。当時は、従業員、コミュニティ、環境、株主さえ制約要件にすぎなかった。これが大きく変わったことが、今日のアメリカの経営者が世も末と思うようになった一因である。
 ところが、非営利組織にとって関係者はもともとたくさんいる。そのいずれもが拒否権を持っている。学校の校長は、教師、教育委員会、納税者、そして高校の場合には生徒まで満足させなければならない。これら五種類の顧客がみな、学校を違う角度から見ている。彼らのいずれもが、学校にとって欠くことのできない存在である。それぞれがそれぞれの目的をもっている。校長としては、クビにされたり、ストライキされたり、座り込まれたりすることのないよう、彼らのすべてを満足させなければならない。
 1960年頃まで、地域の病院は基本的に医師のために経営されていた。医師が最上位の関係者だった。医師が「入院させなさい」といえば逆らう者はいなかった。いまでは事態は変わった。医療費を負担する雇用主が、医療的にも経済的にも満足させられるべき関係者として登場した。病院の収入の五分の二が老人医療費となったために、連邦政府が病院の利害関係者として登場した。会員制健康保険組合まで利害関係者になった。病院の職員も発言権を増大させた。より多くを要求するようになったというよりも、彼らの多くが専門性を高めたためだった。
 最近協会の多くが信者を増やし、活動を活発化させているのは、青少年、新婚、成人のそれぞれのマーケットが別のニーズを持っていることを認識し、その認識を活動に反映させるようになったからである。
それらの境界は、信者のグループごとに目標を設定し、それぞれに担当者を配置している。

 上記について『実践するドラッカー利益とは何か』(上田惇生監修P94)では下記のように解説しています。

 多くの組織は、ミッションを持っています。それは企業理念や経営理念などとして表現されています。また、経営計画をはじめとした各種プランも多くの場合持っています。しかし、売上や利益とは別に「成果」を定義している企業は億ありません。ドラッカー教授が「成果が主役である」としたにもかかわらずです。
 経営計画を立案してもいわゆる“絵に描いた餅”となってしまうのは、成果を定義していない点に多くの一端があると考えられます。あるいは、成果の形を利益のみで定義しているケースが多いからではないでしょうか。
(中略)
 ミッションと計画を結ぶ重要な役割を果たす「成果」を明確にすることが、ミッションという良き意図を計画として具体化し、実行たらしめる唯一の方法です。マネジメントの主役たる「成果」に対する組織全体の意識を高めて、結果を手にしましょう。

 そもそもミッションには「使命」や「役割」。「任務」などの意味があり、ビジネスシーンにおいては、「会社が成し遂げたい目標」や「会社が果たすべき使命」。「社会における存在意義」のことを指します。という説明がほとんどです。
 会社が誰に対して果たす使命なのでしょうか?知的資産経営で、「企業が持続的な利益を続けていくためには、その企業の取組みを顧客、取引先、従業員、金融機関、株主などのステークホルダーに有益な情報を開示する必要がある」と述べているのを思いだしました。2冊の本を読み、ミッションとは「会社がステークホルダーに対して果たすべき役割」と理解しました。その「成果」が利益につながらなければ企業は持続的な発展を続けることができない、それがミッションからスタートするという意味ではないでしょうか。